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SES契約書の書き方|記載項目・偽装請負対策・印紙・取適法まで

SES契約書とは、エンジニアがお客様先で技術的な作業をすることについて、SES会社とお客様(発注元)の間で結ぶ契約の書面です。法律に「SES契約」という型はないので、中身は民法の準委任契約として作るのが一般的です。このページでは、まず準委任の性質とほかの契約との違いを押さえ、そのあと基本契約書と注文書に何を書くか、偽装請負と見られないための書き方、印紙と取適法、そして契約書の条文が毎月の精算と請求にどうつながるかを順に見ていきます。

SES契約は準委任契約として作る

民法656条は「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」と定めています。弁護士に訴訟の代理を頼むような法律行為の委託が「委任」で、システムの開発や運用のような法律行為でない仕事の委託が「準委任」です。SESはエンジニアの作業そのものを提供する取引なので、この準委任に当たると考えられています。

準委任では、受ける側(SES会社)は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」を負います(民法644条)。仕事を完成させる義務はありませんが、プロとして通常求められる注意を払って作業する義務はあります。報酬は特約があって初めて請求でき、作業をしたあとに請求するのが原則で、期間で報酬を決めたときはその期間が過ぎたあとに請求できます(民法648条)。月ごとの単価で請求するSESの形は、この期間で報酬を決める形です。

準委任には、作業をした割合に応じて報酬を払う「履行割合型」と、作業で得られた成果に対して報酬を払う「成果完成型」があります。成果完成型は2020年4月の改正民法で条文に入った形で(民法648条の2)、SESの大半は履行割合型です。詳しくは → SESの準委任契約 にまとめています。

派遣・請負・業務委託との違い

SES契約書を作るときにいちばん気をつけたいのが、派遣契約と請負契約との違いです。主な違いを表にまとめると、次のようになります。

比べることSES(準委任)請負労働者派遣
何に対してお金を払うか作業をすること(時間・期間)仕事の完成(成果物)労働力の提供
完成させる義務なしありなし
作業の指示をする人SES会社請け負った会社派遣先(お客様)
契約不適合責任原則なしありなし
必要な許可なしなし労働者派遣事業の許可
期間の制限法律上はなし法律上はなし同じ組織単位で同じ人は原則3年まで(労働者派遣法40条の3)
根拠となる法律民法656条ほか民法632条ほか労働者派遣法

「業務委託」は法律上の言葉ではなく、外部に仕事を頼む契約をまとめて呼ぶ言い方です。中身によって請負か準委任(委任)のどちらかになり、SESはそのうちの準委任です。契約書の題を「業務委託契約書」としても「SES契約書」としても、どの契約に当たるかは題ではなく、書いてある中身と実際の運用で判断されます。

基本契約書と個別契約書(注文書・注文請書)

SESの取引では、最初に基本契約書を1本結び、案件ごと・期間ごとに注文書と注文請書を取り交わす形が多く使われています。基本契約書には取引全体に共通するルール(指揮命令、再委託、秘密保持、損害賠償、解除など)を書き、注文書には個々の案件の中身(誰が、どこで、いつからいつまで、いくらで)を書きます。

書類主に書くこと交わす回数
基本契約書取引全体のルール、契約の性質、指揮命令、再委託、知的財産、秘密保持、損害賠償、解除、反社条項、有効期間と更新取引を始めるときに1回
個別契約書(注文書・注文請書)作業内容、作業場所、期間、作業者、月額単価、精算幅、超過・控除の単価、締め日と支払日案件ごと、更新ごと
秘密保持契約書(NDA)秘密情報の範囲、管理、返還・廃棄、期間取引の前に1回(基本契約書に含める場合もある)

SESの注文書は、3か月ごとに巻き直すのが基本という声をよく伺います。同じエンジニアが同じ現場に1年いれば注文書は4本になり、エンジニアが10名いれば年に40本前後の注文書が行き来することになります。上位の会社(お客様)と結ぶ注文書と、BP(協力会社)やフリーランスに出す注文書は別々にあるので、管理する本数はさらに増えます。

契約書に書く項目と注意点

契約書に書く主な項目を、基本契約書と注文書のどちらに書くことが多いかとあわせて整理します。

項目どこに書くか書くときの注意
契約の性質基本契約書準委任であること、完成義務を負わないことを書く
作業内容注文書「システム開発業務全般」のような書き方を避け、工程・対象システム・作業時間帯・夜間休日の対応の有無まで書く
作業場所・期間注文書開始日と終了日、更新の扱い
指揮命令・業務責任者基本契約書と注文書作業の指示はSES会社の責任者がすること、お客様はエンジニアに直接指示しないことを書く
月額単価・精算幅注文書基準時間、上限と下限、超過・控除の単価と計算式、端数の扱い
支払条件基本契約書と注文書締め日、支払日、振込手数料をどちらが持つか
経費基本契約書交通費や機材の負担者
再委託基本契約書お客様の承諾が要るか、再委託先の管理
知的財産基本契約書成果物の著作権がいつ誰に移るか、もともと持っていた汎用的な部品やノウハウを除くか
秘密保持・個人情報基本契約書範囲、例外、契約終了後の期間、アクセス権限の削除
損害賠償基本契約書上限額、間接損害の扱い、故意・重過失を上限の例外にするか
解除・中途終了基本契約書解除できる場合、事前に知らせる期間、中途終了したときの報酬
反社会的勢力の排除基本契約書近年は入れるのが通例

作業内容

作業内容があいまいだと、どこまでが単価に含まれるのかでもめやすくなります。準委任では成果物の完成を約束しないので、何の工程の、どの作業を引き受けるのかを具体的に書きます。「関連する一切の業務」のような包括的な書き方は、受ける側から見ると追加費用なしで仕事が広がる原因になります。

単価と精算幅

SESの注文書でよく使われるのは、月額の単価を決めたうえで、基準になる時間の幅(たとえば140〜180時間)を決め、幅を超えたら超過の単価で加算、下回ったら控除の単価で差し引く書き方です。超過・控除の単価は「月額単価÷上限時間(または下限時間)」とする上下割と、「月額単価÷基準時間」とする中間割があり、どちらにするかで毎月の請求額が変わります。計算式と端数の処理(1円未満を切り捨てるか、15分単位で数えるか)まで書いておくと、請求のたびに確認しなくて済みます。精算幅の決め方は → SESの精算幅 で詳しく扱っています。

時間で精算する書き方そのものは一般的ですが、遅刻や欠勤で減額する、勤務時間を拘束するといった書き方まで入れると、労働者派遣に近い中身だと見られる材料になることがあります。時間は作業量の目安として扱い、勤怠の管理はSES会社がするという書き方にそろえておくのが無難です。

支払条件

締め日と支払日は、毎月の資金繰りに直結します。「月末締め翌月末払い」が多い一方で、上位の会社の支払いが翌々月になる取引もあり、BPやフリーランスへの支払いのほうが先に来ると、その間の資金を自社で立て替えることになります。後で触れる取適法とフリーランス法では、支払期日を60日以内に決める決まりがあります。

再委託

民法644条の2は、受けた側は委任した側の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときでなければ、別の人に任せられないと定めています。SESではBPのエンジニアに入ってもらうことが多いので、基本契約書で再委託を認めるか、承諾の手続きをどうするかを決めておきます。何段も下に再委託が続くと、誰が指示を出しているのかがわかりにくくなり、偽装請負と判断される運用が起きやすくなります。

知的財産

準委任でも、作業の中でプログラムや設計書が生まれます。著作権がいつ(作成時か、報酬の支払時か)誰に移るのか、もとから持っていたライブラリや汎用的なノウハウは移さないのか、著作者人格権を行使しないのかを書いておきます。

損害賠償

賠償額の上限(たとえば直近数か月分の報酬額まで)を決めるかどうかは、受ける側と発注する側で利害が分かれます。受ける側は上限を設けたいところですが、発注する側にとっては、情報漏えいのような大きな事故で損害を取り戻せなくなるおそれがあります。故意・重過失や秘密保持違反を上限の例外にするかもあわせて決めます。

解除と中途終了

民法651条では、委任は各当事者がいつでも解除できるとされ、相手に不利な時期に解除したときなどは損害を賠償しなければならないとされています。いつでも解除できるという性質があるので、契約書では「1か月前までに書面で知らせる」のように、事前に知らせる期間を決めておくのが一般的です。中途で終わったときの報酬は、民法648条3項で、すでにした履行の割合に応じて請求できるとされています。

偽装請負と見られないための書き方

偽装請負とは、契約書は請負や準委任になっているのに、実際にはお客様がエンジニアに直接指示を出していて、中身が労働者派遣になっている状態のことです。派遣の許可なく労働者派遣事業を行うと、労働者派遣法59条で1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。また、派遣法などの適用を免れる目的で請負など別の名目の契約を結んで役務を受けると、受けた側が労働契約を申し込んだものとみなされる制度もあります(労働者派遣法40条の6)。

派遣と請負(準委任も含めて考えられています)を分ける基準は、厚生労働省の告示(昭和61年労働省告示第37号、いわゆる37号告示)にあります。主な中身は次のとおりです。

告示の要件SESの現場で言うと
業務の進め方の指示と評価を自分でする作業の割り振りや進め方の指示、評価はSES会社の責任者がする
労働時間の指示と管理を自分でする始業・終業、休憩、休日、残業の指示はSES会社がする(お客様が時間を把握するだけなら別)
服務規律や配置の決定を自分でする誰をどの作業に当てるか、交代させるかをSES会社が決める
資金を自分の責任で調達する業務に必要な費用を自社で持つ
事業主としての法律上の責任を負う損害賠償などの責任を自社が負う
単なる労働力の提供でない自社の機材を使う、または自社の専門的な技術や経験で業務を処理する

契約書でできることは、指揮命令がSES会社にあること、業務責任者を置いてお客様の依頼はその人を通すこと、勤怠の管理はSES会社がすることをはっきり書くことです。ただ、契約書の文面が正しくても、現場でお客様の社員がエンジニアに直接作業を割り振っていれば、実態で判断されます。契約書と現場の運用が一致しているかは、定期的に確かめておく必要があります。

大きな会社と取引を始めるときに、先方の担当の方が何人も同席して、二重派遣になっていないか、指揮命令はどうしているかを細かく確認されたという話はよく伺います。また、派遣の許可を持っている会社では、許可の調査の際に「派遣で出している人かどうか(派遣労働者かどうか)を書類に書き分けるように」と指摘されることもあるそうです。SESと派遣の両方をしている会社は、契約書と社内の台帳の両方で、誰がどの契約で出ているのかを分けておく必要があります。

印紙は要るか

国税庁の手引では、委任に関する契約書は課税物件表に掲げられていないので印紙税は課されないとされています。準委任の中身だけで書かれたSES契約書は、原則として印紙が要りません。

ただし、次のような場合は課税文書になることがあります。

文書の種類どんなときに当たるか印紙税額
第2号文書(請負に関する契約書)仕事の完成を約束する請負の中身が入っている契約金額による(1万円以上100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円など。金額の記載がなければ200円)
第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)継続的な取引の基本となる契約書(契約期間が3か月以内で更新の定めのないものを除く)1通4,000円

準委任として作るつもりでも、「受入検査」「契約不適合責任」「仕事の完成に対する報酬」のような請負の条項が入っていると、第2号文書と判断される可能性があります。基本契約書が第7号文書に当たるかどうかも、書いてある中身で決まります。

電子契約で結んだ場合について、国税局の文書回答事例では、注文請書を電磁的記録で送っただけなら課税文書を作成したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しないとされています。メールで送ったあとに紙の注文請書を別に渡すと、その紙には印紙税がかかります。

取適法とフリーランス法

2026年1月1日から、下請法が改正されて「取適法」(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)になりました。SESのように、受けた仕事の一部を別の会社に出す取引は、役務提供委託や情報成果物作成委託として対象になることがあります。プログラムの作成や情報処理の委託では、発注する側が資本金3億円超か従業員300人超で、受ける側が資本金3億円以下か従業員300人以下の場合などが対象です(発注する側が資本金1千万円超3億円以下で、受ける側が資本金1千万円以下の場合も対象)。今回の改正で従業員数の基準が加わったので、資本金が小さくても従業員の多い会社との取引は確認が要ります。

対象になると、発注する側には次の義務があります。

義務中身
発注内容の明示給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法を、書面か電子メールなどで示す
書類の作成と保存取引の記録を作り、2年間保存する
支払期日の設定受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で、できる限り短い期間で決める
遅延利息支払いが遅れたときは年14.6%の遅延利息を払う

禁止行為には、支払遅延、減額、買いたたき、協議に応じない一方的な代金の決定(今回新設)などがあります。手形での支払いも禁止になりました。

フリーランスのエンジニアと直接契約する場合は、2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)も関わります。発注する側は、業務の内容、報酬の額、支払期日などをすぐに書面かメールで示し、役務の提供を受けた日から60日以内に支払期日を決めて払う必要があります。再委託の場合は、元の発注者からの支払期日から30日以内とすることも認められています。

自社がどちらの立場にもなるのがSES会社の特徴です。上位の会社に対しては受ける側、BPやフリーランスに対しては発注する側になるので、自社が出す注文書が取適法やフリーランス法で求められる項目を満たしているかも確認しておきます。BPとの取引の進め方は → SESのBP で扱っています。

契約書チェックリスト

締結の前に、少なくとも次の点を確かめておくと、あとから困ることが減ります。

  • 契約の性質が準委任と書かれ、請負の条項(受入検査、完成に対する報酬、契約不適合責任)が混ざっていない
  • 指揮命令がSES会社にあり、業務責任者が決まっている
  • 作業内容が工程や対象システムのレベルまで具体的に書かれている
  • 精算幅の上限・下限、超過・控除の単価、計算式、端数の扱いが注文書にある
  • 締め日、支払日、振込手数料の負担が決まっている
  • 再委託を認めるか、承諾の手続きが決まっている
  • 知的財産の移転時期と、自社がもとから持っているものの扱いが決まっている
  • 損害賠償の上限と例外が決まっている
  • 解除の事前通知の期間と、中途終了したときの報酬の扱いがある
  • 取適法・フリーランス法の対象になる取引で、必要な項目が注文書に入っている
  • 印紙が要る中身になっていないか(電子契約か紙か)

よくあるトラブル

SES契約でよく起きるトラブルは、偽装請負の指摘、精算幅の計算の食い違い、途中解約、知的財産の帰属、秘密保持違反がほとんどです。これに加えて、社長の方からよく伺うのは、契約の入口と出口の話です。

入口では、取引を始める前に決算書の提出を求められ、信用調査の評点が下がると取引を続けられなくなる可能性があると言われた、という声をよく伺います。契約書の条文とは別に、取引先の審査があることは知っておいたほうがよいところです。

出口では、案件の延長の見込みを口頭で聞いていたのに、更新されずに終わったという話がよく出ます。上位の会社から「延長見込みあり」のような内容を書面でもらうようにしている会社もあります。逆に、エンジニアの側の都合で途中で抜けたときに、1か月分を請求するという条項が入っていた例もあるそうです。解除と中途終了の条項は、締結の前に読み合わせておくのが確実です。

契約書の条文は毎月の請求につながる

ここからは、契約書を結んだあとの話です。SES契約書のうち、精算幅、計算式、端数の処理、締め日、支払日の条文は、毎月の請求書にそのまま出てきます。

たとえば、お客様との注文書が中間割、BPとの注文書が上下割になっていると、同じエンジニアの同じ稼働時間でも、売りの請求額と仕入れの支払額の差が月ごとに変わります。精算幅も、お客様とは140〜180時間、BPとは150〜190時間というように一致していないことがあり、その月に何時間働いたかによって、自社に残る金額が増えたり減ったりします。月の途中で入場・退場したときに日割りにするのか、稼働時間で精算するのかも、注文書によって違います。

注文書が3か月ごとに更新され、単価が変わるたびに新しい条件が加わるので、社長が自分で請求書を作っている会社では、毎月どの注文書のどの条件で計算するのかを確かめる作業が月末月初に集中します。請求書の作り方は → SESの請求書 に、粗利への影響は → SESの利益率 にまとめています。

契約書の作成やチェックは、個別の中身によって判断が変わります。締結の前に、弁護士などの専門家に確認してもらうことをおすすめします。

毎月の請求事務を任せたいときは

RY consulting は、SES会社の請求事務だけを引き受けています。お客様先への請求書の作成(御社の書式で)、BP・フリーランスからの請求書の照合(相違があったときだけお知らせします)、稼働表の提出状況のお知らせ(営業担当ごと)、月に一度の確認事項(入場・終了・単価変更)の確認を行います。御社にお願いするのは、稼働表と請求書を共有フォルダに入れていただくことと、月1回の確認事項へのご回答だけです。料金は月額でエンジニア10名まで50,000円、11〜20名70,000円、21〜30名90,000円、31名以上は個別のお見積り(いずれも税別)、初期費用は100,000円(税別)です。契約期間の縛りはなく、最短3営業日で作業を始められます。注文書ごとに条件が違う請求をどう回すか、まずは15分で相談してみてください。

出典

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