SESの商流とは?深くなる理由・マージン・商流制限と取適法
SESの商流とは
SESの商流とは、仕事を頼むエンド企業から、実際に働くエンジニアが所属する会社まで、どの会社がどの会社と契約しているかという取引のつながりのことです。エンド企業と直接契約している会社を元請け(一次請け)、その会社から仕事を受ける会社を二次請け、さらにその下を三次請けと呼び、間に入る会社が少ないほど「商流が浅い」、多いほど「商流が深い」と言います。
図の代わりに、よくある形を表にします。
| 位置 | 立場 | 契約の相手 |
|---|---|---|
| エンド企業 | システムを使う会社。仕事の発注元 | 元請け |
| 元請け(一次請け) | エンド企業から直接受ける会社。大手のSIerなど | エンド企業と二次請け |
| 二次請け | 元請けから受ける会社 | 元請けと三次請け |
| 三次請け以降 | さらに下で受ける会社 | 上と下の会社 |
| 所属会社(SES会社・BP) | エンジニアが所属する会社 | すぐ上の会社 |
エンジニアから見て、自分の会社がエンド企業と直接契約していれば「エンド直」、元請けとの契約なら「二次」、といった数え方をします。どこまでを1段と数えるかは会社によって言い方が少し違うので、話をするときは「エンドから何社目か」で確かめると間違いがありません。
なぜ商流が深くなるのか
商流が深くなる主な理由は、次のとおりです。
- 人を集めるため:元請けは大きな案件で何十人も必要になりますが、自社の社員だけでは足りないため、取引のある会社に声をかけ、その会社もまた別の会社に声をかけます。
- 取引口座と与信:大手の会社は、新しい会社と直接取引を始めるときに審査があります。審査を通っていない会社は、口座のある会社の下に入る形で案件に参加します。
- 案件と要員の情報が会社の間を回る:案件情報と要員情報をメールで流し合う慣行があり、情報が回るたびに会社が1社ずつ間に入ります。
- 繁閑の調整:上の会社は、必要な時期だけ人を増やし、終わったら減らせる形を取りたいので、下の会社に人の確保を任せます。
商流が深いこと自体は違法ではありません。問題になるのは、契約の中身と現場の実態が合っていない場合や、取り分だけを取る会社が増えて末端の単価が下がりすぎる場合です。
段ごとのマージン
間に入る会社は、それぞれ取り分を取ります。段ごとの取り分を集計した公的な統計はなく、率は会社や案件によって違います。考え方を示すと次のようになります(計算の例で、相場ではありません)。
| 商流 | エンド企業が月100万円を払う案件で、各社が10万円ずつ取った場合 |
|---|---|
| 元請けの受取 | 100万円 |
| 二次請けの受取 | 90万円 |
| 三次請けの受取 | 80万円 |
| 四次請けの受取 | 70万円 |
公正取引委員会がソフトウェア業の会社に行ったアンケートでは、作業に関わらずに取り分だけを取る会社(いわゆる中抜き)がいると感じたことがある割合が、全体で25.9%、元請けで18.5%、中間の下請けで29.2%、最終の下請けで33.5%でした(出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」2022年)。商流の下にいる会社ほど、そう感じている割合が高くなっています。単価そのものの水準は別のページにまとめています → SESの単価。
社長の方からよく伺うのは、各社の取り分が積み重なるので、エンド企業が払う金額は、自社で社員を雇ったり請負で頼んだりする場合より高くなることがある、というお話です。逆に、深い商流で実績を積んだことで、元請けの会社と直接取引できるようになった、というお話もあります。
多重下請けの問題点
末端の単価が下がる
段が増えるほど、所属会社が受け取る単価は下がり、エンジニアの給与の原資も小さくなります。スキルのある人ほど条件のよい会社に移るので、商流の下の会社は人を集めにくくなります。
情報と責任が見えにくくなる
現場で起きたことは、何社も経由して所属会社に届きます。契約の終了や単価の変更、作業内容の変化が伝わるまでに時間がかかり、途中で内容が変わることもあります。不具合や情報漏えいがあったときに、どの会社が責任を持つのかもわかりにくくなります。
偽装請負・二重派遣のおそれ
SESは準委任契約なので、エンド企業や元請けがエンジニアに直接仕事の指示を出すことはできません → SESの準委任契約。準委任や請負の形でも、実際に発注側が指揮命令をしていれば、派遣か請負かを分ける厚生労働省の基準(昭和61年労働省告示第37号)に照らして労働者派遣とみなされることがあり、いわゆる偽装請負になります。また、派遣で受け入れた人をさらに別の会社に送る「二重派遣」は、職業安定法44条が禁じる労働者供給事業に当たるおそれがあります。商流が深いと、どの会社が誰に指示しているのかがあいまいになりやすい点に注意が要ります。
支払いが遅れたときに連鎖する
各段の会社は、上から入金があってから下に払う形になっていることが多く、上の入金が遅れると下の会社まで順に遅れます。同じ調査では、支払遅延・不払いに当たると考えられる経験があった会社が7.4%、買いたたきが15.7%でした(出典:同上)。
商流制限とは
商流制限とは、案件を出す側が「どの段の会社の人まで受け入れるか」を決めた条件のことです。案件情報には、次のような書き方で載っています。
| 表記の例 | 意味 |
|---|---|
| 貴社まで | 案件を受け取った会社の社員だけ。BPは不可 |
| 1社先まで | 受け取った会社の1つ下の会社の人まで可 |
| 2社先まで | 2つ下の会社の人まで可 |
| 個人事業主不可 | フリーランスは不可 |
商流制限がかかるのは、指揮命令や責任の経路を短くしたい、情報管理を確かめやすくしたい、取り分が重なって単価が合わなくなるのを避けたい、といった理由からです。二社先の要員だと、契約の条件も単価も合わなくなる、というお話を社長の方からよく伺います。自社がどの位置にいるかで、提案できる案件の範囲が決まります。
商流飛ばしとは
商流飛ばしとは、間に入っている会社を通さずに、上の会社やエンド企業と直接契約しようとすることです。長く同じ現場にいると、エンド企業との距離が近くなり、「なぜ間に会社が入り続けるのか」と考えやすくなります。ただ、紹介を受けた案件の商流を飛ばすことは業界では強い背信行為と受け取られ、発覚すると間の会社との取引が止まり、評判が広まって他の会社からも取引を断られることがあります。最初から浅い商流で直接契約を結ぶのは、商流飛ばしではありません。
基本契約書に、紹介を受けた取引先と一定期間は直接取引しない約束を入れている場合もあるので、商流を上げたいときは、契約の中身を確かめたうえで、新しい取引先を自社の営業で開拓するのが筋です → SES契約書。
取適法(2026年1月施行)と商流
2026年1月1日に、下請法が改正されて「中小受託取引適正化法」(取適法)として施行されました。主な内容は次のとおりです(出典:公正取引委員会「取適法」リーフレットほか)。
- 対象の取引:製造委託・修理委託に加え、情報成果物作成委託(プログラムの作成など)と役務提供委託が対象です。準委任のSES契約も、取引の中身と会社の規模によっては対象になります。
- 規模の基準:資本金に加えて従業員数の基準ができました。プログラムの作成や情報処理などの取引では、頼む側が資本金3億円超または従業員300人超で、受ける側がそれより小さい場合などが対象です。
- 支払期日:受け取った日(役務の場合は提供を受けた日)から60日以内の、できるだけ短い期間で支払期日を決める必要があります。
- 支払方法:手形での支払いが禁止され、支払期日までに満額を受け取りにくい電子記録債権なども使えなくなりました。
- 価格の協議:受ける側から価格の協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることは禁止です。
- 発注内容の明示:給付の内容、代金、支払期日、支払方法などを、書面か電子メールなどで示す必要があります。
取適法は会社と会社の取引のルールで、エンジニアの給与を直接決める法律ではありません。個別の取引が対象になるかどうかは、契約の中身と両社の規模で変わるので、迷うときは専門家に確かめてください。
商流をまたぐお金と書類の流れ
ここからはSES会社の実務の話です。商流が何段あっても、毎月の流れは各段で同じことの繰り返しです。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| 契約時・更新時 | 上の会社から注文書が届き、注文請書を返す。下の会社(BP)には自社から注文書を出す |
| 月末 | エンジニアの稼働表(作業報告書)を集め、上の会社に出す。BPからも稼働表を受け取る |
| 月末〜月初 | 精算をして上の会社に請求書を出す。BPから請求書を受け取り、中身を照合する |
| 翌月〜翌々月 | 上の会社から入金があり、BPに支払う |
段が深いと、エンドに近い会社が稼働表を確定するまで下の会社は請求書を作れず、締めが何日もずれ込みます。上の会社の支払サイトが長いと、自社はBPに先に払い、上からの入金を待つ形になり、手元の資金が苦しくなります。60日以内に支払期日を決めるルールは下請法のときからありますが、取適法で従業員数の基準が加わり、これまで対象外だった取引が対象に入ることがあります。上の会社との契約、BPとの契約のそれぞれで、支払期日がこのルールに合っているかを確かめておく必要があります。
月末の作業で間違いが起きやすいのは、上の会社との精算の条件と、BPとの精算の条件が違うところです。精算幅や端数の扱いが違えば、同じ稼働時間でも請求する金額と支払う金額の差が月によって変わります → SESの精算幅。請求書の作り方は別のページで書いています → SESの請求書。
請求の事務を任せるという選択肢
RY consulting は、SES企業の請求事務だけを引き受けています。御社の書式でのお客様先への請求書の作成、BP・フリーランスからの請求書の照合(相違があったところだけお知らせします)、営業担当ごとの稼働表の提出状況のお知らせ、月に一度の確認事項(入場・終了・単価変更)の確認を行います。御社にお願いするのは、稼働表と請求書を共有フォルダに入れていただくことと、月1回の確認事項へのご回答だけです。料金は月額でエンジニア10名まで50,000円、11〜20名70,000円、21〜30名90,000円、31名以上は個別にお見積りします(いずれも税別、初期費用100,000円・税別)。契約期間の縛りはなく、最短3営業日で作業を始められます。商流をまたぐ請求と照合の手間が気になる方は、まずは15分で相談するところから始めてみてください。
出典
- 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_software.html (概要 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_02_sw.pdf )
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)」の概要(秋田県掲載の参考資料) https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000056716_00/03_【参考資料】中小受託取引適正化法(取適法)概要.pdf
- 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
- 職業安定法第44条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141